割れないコップと欠けた月
悪夢を見た
独りになる夢
周りに人は大勢いるのに
誰も私を見てくれない
話も聞いてくれない
大声で叫んでも気づきもしない
独りになる夢
耐えきれなくて
手にしていた硝子のコップを
思い切り地面に叩きつけた
でもコップは割れなかった
そこで目が覚めた
見慣れた天井が
私の視界にフェードインしてくる
朝陽はまだ昇ってないらしく
冷たく、暗い
一週間の始まりに見た夢
悪夢
もう一度寝ようと思ったが
寝付けなかった
でも布団から出る気もなく
ただ天井を見上げていた
悪夢を見た
独りになる夢
だけど、コップは割れなかった
近所の犬が吠えている
いつもは大人しい犬
誰かに悪戯でもされたのだろうか
なかなか治まらない
天井の木目が人の顔に見えてくる
私を嘲笑う顔
無数の顔
怖くはなかった
不気味でもなかった
これより怖いものを見たから
瞼を閉じると
さっきまで見ていた夢がフラッシュバックしてくる
独りになる夢
本当の私はこれを望んでいるのだろうか?
カーテンから透けてくる光が
だんだん強くなってきた
みんなが知ってる光
朝陽
希望の象徴とされる光
私の中にはこういう光があるのだろうか?
気が付くと枕元の時計が
いつも起きる時間を指していた
いつもと同じように身支度を終え
いつもと同じように階段を下り
いつもと同じように洗面所に向かった
顔を洗い終わると
いつもとおなじようにキッチンに向かった
母が私にいつもと同じように挨拶する
嬉しかった
いつもと同じようにチャリにまたがり
いつもと同じように学校を目指した
暫く行くと
交差点で赤信号にひっかかった
時間が経つたびに
信号で止まる足が増えてくる
私は、ふと何気なく空を見上げた
玩具のように整列しているビル群の間に月が見えた
青い空に良く映える白い月
その月は下半分欠けた状態で
西の空に浮いていた
信号が変わり横断歩道を渡ると
月は見えなくなった
あの月は今日の夢を見る前の私だ
でもコップは割れなかったから
きっと私の中にも
朝陽のように何をしても壊れないものがあるだろう
教室からも白い月が見えた
私はそれを窓側の席から
頬杖をついて見ていた
隣の席にいた友達が月を見ていった
『綺麗だね』
悪夢を見た
独りになる夢
だけどそれはただの夢になった
あのコップは割れなかったから
きっと
私も壊れない